開発日記
2022年7月 X線検査と光学検査について考える
半導体真贋判定装置の電源スイッチ
2022.07.31
開発しようとしている半導体真贋判定装置では、すべての端子をVCCやGNDに接続することができるようにするのですが、全ピンをVCCやGNDに接続するためにMOS FETを使おうと考えています。
1000を超えるBGAの全ピンにVCCやGNDへのスイッチを付けるとなると相当な数になるのですが、まずはどのくらいの規模になるかを見積もってみました。
いま、入手可能なMOSFETでもっとも小さいのはおそらくTexas Instruments社のFemtoFETかと思われます。Digikeyで数種類を入手してみました。
1005サイズのMOSFETなのですが、
うわっ!小っさ!
こういうタイプのもあります。
データシートによればこういうサイズになっているようです。
このFETをピン1つあたり4個付けて3種類のVCCと1つのGNDをON/OFFさせたとして、324ピンのFPGAならば1296個のFETと1296chのGPIOが必要になります。
GPIOといっても、FETを個別のON/OFFするだけなので信号の速度は不要です。だから、74HC595のシリアル・パラレル変換でよいのです。HC595タイプで最もパッケージの小さいものは何かと探してみると、74AHCT595BQというパッケージのものになります。
8bit出力なので1個のHC595で2つのピンをコントロールできることになります。
74AHCT595BQの高さが2.5mmで、配線領域やクリアランスを確保するとなると、下の図の配置くらいが限度となります。
これを横16列、縦32行並べて256bitのユニバーサル電源マトリックスをつくってみると、
なんと、177mm×130mmくらいになりました。
基板も大きいし、これだけの数の極小部品を歩留まり100%で実装できる気はしません。
そのうえ、このFemtoFETはゲートからソースに向けて保護ダイオードが入っていて、ゲート電圧がソース電圧よりも高いとソースに逃がしてしまいます。だから、VCC1が1.0VであるようなICを検査しようとした場合、HC595の出力からVCC1へ流れていってVCC1の電圧が上昇することになります。
結局、この回路はボツになりました。
HOZANのUSB顕微鏡の商品体系
2022.07.28
IC真贋判定装置開発の一環として、光学検査も導入したいと思っています。
光学検査といっても何をやるのか明確には定められないのですが、マーキングの不自然さやICの足の折れ曲がりなどを見ればよいのかなぁと漠然と考えています。
デジカメやスマホよりも良い写真を撮って残したいので、産業用のUSBカメラを購入することになるのですが、私はカメラ初心者なので用語とか全然わかりません。
基板実装用品のHOZANがUSBマイクロスコープのラインナップを出しているので、この中から選ぶことにしました。
https://www.hozan.co.jp/microscope/index.html
まず、カメラには解像度が300万画素と500万画素があり、インタフェースにはUSB出力のものとHDMI出力のものがあります。HDMI出力はモニタでその場で見るためのもので、今回は記録に残すのが目的なので「500万画素のUSB出力」のものを選びます。
つぎにレンズの選択なのですが、このレンズの選択がいろいろあって一番難しい。
私なりの理解では、
- L-815・・倍率中 x13~92 スタンダード。偏光フィルタ取付可能
- L-816・・倍率中 x28~185 スタンダード。偏光フィルタ取付可能
- L-817・・倍率大 x39~275 スタンダード。偏光フィルタ取付可能
- L-876・・倍率大 x46~275 高画質で明るい
- L-873・・倍率最大 x76~635 とにかく拡大を求めるならこれ
- L-870・・倍率中 x11~37 差動距離が可変。広い視野の撮影ができる
- L-600-12・・単焦点レンズ 100mmより遠いところを撮影する
- L-600-35・・単焦点レンズ 250mmより遠いところを撮影する
- L-630・・単焦点レンズ。安価。
- L-802・・エクステンションリングで倍率を変えられる単焦点レンズ
となります。
倍率は高ければよいというものではありません。例えば、公式サイトのサンプル画像を見てみると、スタンダードのL-817、倍率最大のL-873と、高画質のL-876を見比べてみると、L-817とL-876は倍率は同じですが、L-876のほうが明るく綺麗にくっきり見えています。
L-873は拡大率はさらに2倍ほどありますが、0.4×0.2mmの範囲を2592×1944pixelで撮影するので、1pixel=0.15umくらいとなります。1pixelが1ミクロン以下の世界を拡大しても、意味がある画像が撮れてるのかと考えると、そこまでの解像度はいらないかもしれませんね。
顕微鏡レンズとしてはL-876がダントツに優秀なのですが、偏光フィルタが取り付けられるのはL-815/816/817の3種類なのです。ちょっと残念。(偏光フィルタを使うと、光の反射を抑えたりプラスチックにかかる応力などを見ることができますが、正直なところICの真贋判定検査に意味があるのかどうかはわかりません。ですが、反射を抑えて撮影できるというのは何かメリットがあるかもしれません。)
拡大して撮影する目的としては、ICのマーキングの粗さを見るというのが挙げられます。ICのマーキングはシルク印刷しているのではなくてレーザで焼いているそうなのですが、正規品は最新の機種だと25umくらいのスポットのレーザーで焼いている(らしい)です。
一方、偽物ICはレーザープリンタを改造して作っていると聞いたこともあるのですが、マーキングは汚いそうです。
1pixel=1umの分解能があれば十分ではないかと思うのですが、実際に偽物ICを解析してみないことにはなんともわかりません。
倍率とトレードオフになるのは視野です。高倍率のレンズほど視野が狭くなるのですが、顕微鏡レンズのL-816~L873だと、1cm四方以下の範囲しか撮ることができないので、ICのパッケージ全体を撮影することができません。
そこで、L-870かL-600のようなレンズが必要になります。
L-870は任意の距離で焦点があってズームもできるというスグレモノですが最大40cmまで離して221×124mmの撮影ができます。L-600はズームができないためレンズ(+カメラ)自体を近づけたり遠ざけたりして目的の分解能と大きさの画像にしますが、単焦点レンズで画質が良いそうです。
これらのレンズを使えばICパッケージ全体はもちろん、実装した基板全体を取ることもできます。出来上がった基板の製品写真を撮るなどの目的にも使えそうですね。
USB顕微鏡を作るには、カメラ、照明、レンズ、ベースを買うことになるのですが、たいていのものはそれらを組み合わせた「キット」になっています。キットで買うと個別に買うより数万円お得です。
しかし、キットはあらゆる組み合わせを網羅しているみたいで100種類以上あるうえ、型番が通し番号で検索もできないので、自分が欲しい構成に近いキットを探すのはかなり大変です。
すべてのキットの型番と特徴を表にしようかと思いましたが、すぐに挫折しました。
最後にまとめると、一つのレンズを理解すると、残りのレンズの良さがわかってきて、結局全部のレンズが欲しくなります。
FPGAとCPLDのX線写真
2022.07.20
ICの真贋判定サービスを始めるにあたって、X線検査も必要だと思い、X線検査装置のデモを見に東京駅前の某社へ伺いました。
そこで、卓上の3D X線CT装置でKintex-7 FPGAを撮影してもらいました。
BGAのボール、中に入っているダイ、コンデンサなどが見えています。
FPGAの真ん中で色が薄くなっている部分がダイと思われますが、うっすらと縦筋も見えています。
次に、CoolRunnerのXC2C256。
これも、中央のダイから周辺に放射状に線が伸びていっているのが見えています。X印のものが何なのかと思っていたのですが、半導体のQFPパッケージって、金属のフレームの中心にダイを乗せて周辺のフレームにボンディングして、モールドした後で切り落として作っているんですね。
参考「新光電気工業 リードパッケージ(QFP/TSOP)用リードフレーム」
https://www.shinko.co.jp/product/package/leadframe/qfp-tsop.php
なので、X印の太い部分と放射状の部分はリードフレームで、中央で四角の上にある角丸の部分がチップ本体なのだと思います。ボンディングワイヤの一本一本は見えてはいません。
0.1mm分解能なのでこのくらいの解像度なのですが、半導体パッケージの中にダイらしいものが入っているかどうかを見るには十分であると言えます。
私がやりたいIC真贋判定方法はX線で判断するのではなく、全端子の電気的特性測定です。
X線は電気的検査を行うべきかどうかを判断するための補助的な予備試験なのです。